インタビュー

2021.08.21

「ここからが本番」バーチャルシンガー理芽は止まらない

覚醒する、歌姫

シーンにおいて絶大な存在感を放つ異能のクリエイティブ集団、KAMITSUBAKI STUDIO所属のアーティストとして2019年にデビューしたバーチャルシンガー理芽。幅広いジャンルのカバーやオリジナルソングのリリースなど精力的に活動を展開し、2021年5月に1st ONE-MAN LIVE「ニューロマンス」を成功させると、7月にはこれまでの活動の集大成たる1st Album「NEW ROMANCER」をリリースした。


透き通るような儚さと一度聴いたら忘れられない強烈さが絶妙に調和したミステリアスな歌声は多くの人を魅了し、他のKAMITSUBAKI STUDIO所属のアーティストたちと同様、瞬く間に熱烈なファンを獲得していったが、その華々しい活躍がどこか自分事ではないような違和感を抱くこともあったという。

だが2年間のアーティスト活動は少しずつ彼女の意識を変えていった。ライブの成功にアルバムリリースとアーティストとして着実にステップを昇る彼女が見据えるもの、今だからこそ感じえる自分自身と音楽について解き明かす。

謎を秘める歌

―1st Album「NEW ROMANCER」リリースおめでとうございます。リードトラックである「NEUROMANCE」は鋭いリリックの中に世界への諦観のような表現も感じられて、いわゆるリードトラックとしての派手なイメージとも異なり比較的抑えめの曲調になっているなど不思議な聴き心地の曲になっていると感じました。理芽さんとしてはどのようなイメージで歌唱されているのでしょうか?

理芽:歌詞に謎の言葉が多いというかとてもひねくれているので、そのひねくれが歌とマッチするように心がけていました。急にリズムが変わったりと展開も変則的なので、そこに合わせてしっかりと感情の変化を表現するというのを意識しています。

―楽曲制作を手掛ける笹川真生さんからはレコーディング時に「もっとヤンキーっぽく」というディレクションもあったそうですが、理芽さんなりのヤンキーっぽさはどのように表現されているのでしょう?

理芽:目に見えて反抗的というよりは、「外からはわからないけど心の奥底では秘めてる思いがあるんだぜ」みたい反骨心を込めました。

歌詞を最初から最後まで全部理解できているかというとそうではなくて、わからない部分やイメージができない部分はリズム重視で歌っていたりもします。そうやって解釈の余地を残して、聴いてもらう方々にそれぞれ別のイメージをしてもらうのも面白いと思うんです。

とはいえ意味がなさすぎても面白くないので、ある程度のニュアンスはつけるんですけど深読みはし過ぎずってバランスを意識しています。

―解釈が難しいときは笹川さんに相談するということもあるのでしょうか?

理芽:結構ありますね。「この歌詞ってどういう意味ですか」とか、どういうイメージですかって聞くんですけど、真生くんからは「あんまり意味はないよ」とか「そこはおまかせで」とか返ってきます(笑)。

でも謎めいてる言葉をハキハキと歌ってしまうとせっかくのその言葉の雰囲気が消えてしまうので、歌詞の言葉遊びとかリズム感を大事にしながら、あまり意味を捉えすぎず雰囲気任せで歌うこともありますね。


―Tr.8の「胎児に月はキスをしない」はややショッキングなタイトルに反して、全編に渡って鳴る軽快なギターの音色が特徴的なロックソングに仕上がっていますね。

理芽:タイトルを初めて見た時に頭の中が「」だらけになって、歌詞を読んだらもっと「」だらけになっちゃいました。普段は解釈に時間がかかるといっても、ある程度は想像できたりするんですけど、この曲は本当に難しくて、唯一イメージがうまくできなかった曲です。

ただタイトルや歌詞が難しくても、とてもリズミカルで自然と歌いたくなる曲なので、あまり意味を捉えずにリズム重視で歌い上げるがいいのかなと思いました。

―誰かに語り掛けるようなMVも印象的でコメント欄にはファンの方々による考察なども数多く寄せられていますが、そうした反響を見て曲を発表した後からイメージが膨らんでいくこともあるのでしょうか? 

理芽:リスナーさんに言われて気づくことは結構ありますし、聴く人によってこんなに受け止め方が変わるんだって気づけるので、コメントを読むのは楽しいです。曲のイメージもそうですけど、あたしってこういう印象なんだとか、こんなところに魅力を感じてもらえてるんだっていう、自分からは見えない部分に気付かせてもらえるのもすごくありがたいですね。

見えなかったものが見えるようになった


―Tr.13の「やさしくしないで」は謎めいたものの多い理芽さんの楽曲の中でも唯一の「自身のことを歌った曲」であることも明かされています。笹川さんが理芽さんにいろんな質問をしてその答えを基につくっていった曲だそうですが、具体的にどのようなことを聞かれたのでしょう?

理芽:「好きな食べ物はなに?」とか「住んでるところはどんなところ?」とか素朴な質問ばっかりでした。「嬉しいときはどうする?」とか「悲しいときはどうする?」っていう感情についてのものもありましたし、恋愛の話とかもありましたけど本当にいたってシンプルで、答えるのが難しかったとかはなかったです。

―その時の答えが歌詞に反映されていると感じる部分はありますか?

理芽:かなりあります。最初のはじまりの部分は、地元の情景がうまく描かれていているなと思いましたし、あたしは辛くなった時とか家を抜け出して公園のベンチに座って心を落ち着かせることがあるんですけど、それが「公園のベンチでやや死んでみる」って歌詞にうまく映し出されてるなと感じました。

ータイトルでもありサビでも印象的に繰り返されている「やさしくしないで」という言葉はどういうやりとりから出てきたフレーズなのでしょう?

理芽:あたし自身がやさしくされるのが苦手なんです。ひどく扱って欲しくはないんですけど、やさしくされすぎると息が詰まるというか、こんな自分にそんなにやさしくされると困るよって感じちゃうという話をしたら、それが印象深かったみたいでサビの「やさしくしないで」って歌詞になったみたいです。

―自信についての曲となるとこれまでの曲とは歌い方や歌詞へのアプローチの仕方も変わっているのでしょうか?

理芽:他の曲と違って自分のことなのでイメージは持ちやすかったです。むしろ自分にしかわからない部分が多いとも思ったので、それを優しい曲調に乗せようと意識していました。

レコーディングの時はあまりアルバム制作を意識していなかったんですけど、今までの曲が詰まったアルバムにあたし自身のことを歌うこの曲を入れてもらうって考えた時に、今まで見えなかったものが見えるようになった感覚というか、まとまりきっていなかったあたしのイメージや雰囲気がまとまったような感じがあったんです。

―今まで見えなかったもの?

理芽:今まではつくってもらった曲を歌うだけというか、言われたことをやっているだけに見えているようなところもあったと思うんです。でもこの曲で初めてあたしのことを歌った曲をつくってもらって、歌詞に意味を込めるっていうことを今まで以上に意識できるようになりました。そしたら今までは当たり前じゃないですけど意識しきれていなかった周りの方々のサポートとか、音楽をつくってくれる方々の思いを一気に感じ取れるようになって、自分の世界を広げるだけじゃなくていろんな人の思いを背負って歌ってるんだって思えるようになったんです。

そうすると曲に対する思いも変わってきたんですけど、自分の中の芯がぶれたりすることはなくて、そうやって感じられた新しいことも吸収して成長できているような気がします。


―Tr.14の「十九月」はポエトリーリーディングのようにトラックに合わせてSFのような世界観が展開されていく曲で、いつにも増して謎に溢れています。

理芽:未来な感じというか、ありえないような出来事がならべてある歌詞なので、その謎めいた雰囲気は出したいとは真生くんやスタッフさんとも話していました。

あたしの想像だけでこの世界観をイメージしようと思ったらこんな曲にはできていなかったと思います。歌い方にしても強弱の付け方雰囲気の作り方をいろんな人と相談しながらできたので、特にみんなで作り上げた曲って印象があります。

―楽曲を聴くだけならストリーミングなどで手軽にできる現代において、アルバムをCDという形でのリリースすることについてはどのような意義を感じていますか?

理芽:あたしはCDを部屋に飾ってるんですけど、CDを見るだけで「あの時は大変だったな」とか「あの曲はこう歌えばよかったな」みたいな思い出が曲を聴かなくても浮かんでくるので、やっぱり形として残るものはいいなって感じます。曲を聴くだけならスマホでできるじゃんっていうのが当たり前だからこそ、それでもアルバムを手にしてくれる方々がいるのはすごい嬉しいです。

―リリースから少し時間が経って、アルバムを手にしたファンの方々からの反響も届き始めていると思いますが、手ごたえのようなものは感じられていますか?

理芽:このアルバムを聴いたら理芽という存在がわかってもらえるようなものにしたいと思ってたんですが、そう思ってもらえてるコメントをいただけたりして、手ごたえというか素直に嬉しい気持ちがあります。

デビューした頃は「花譜ちゃんに似ている」って言われてたりして、「理芽ってなんなんだろう」ってハッキリしていなかった部分もあったと思うんですが、このアルバムに入っているひとつひとつの曲で、「この曲を聴けば理芽がわかる」とか、「この曲こそ理芽らしい」とかリスナーさんたちがいろんなコメントをくれて、ちゃんと今のあたしを感じてもらえるアルバムにできたのかなと思えました。

これからのあたしも楽しみにしてほしいし、むしろこれからが本番なんだろうなって気持ちです。

―ちなみに普段からエゴサはするんですか?

理芽:やっぱりリスナーさんたちからのコメントを見たりするのは嬉しくて励みにもなるんですけど、チヤホヤされてるだけじゃダメだし自惚れにも繋がっちゃうのでほどほどにしようとはしているんですが…しちゃいますね(笑)。

―アンチコメントだったり自分の見たくない情報に触れてしまうこともあるかとも思うのですが、そうした時のメンタルのコントロールはどのようにされているのでしょう?

理芽:厳しいコメントは確かにあるんですが、それって自分だと気づけない部分を指摘してくれていたり、意識はしていないけど自然に出てしまっていた良くない部分を自覚するきっかけにできるので、ありがたいことだなって思うんです。

それでも言い方がキツいものはグサッときたりもするんですが、本当に嫌いなら放っておけばいいのにわざわざ言ってくれるわけだからやっぱりありがたいですし、自分をもっと強くするための糧にしようって思えます。

―羨ましいまでのメンタルの強さを感じますが、その鋼のメンタリティはどのように培われたのでしょう?

理芽:部活をしていた頃に先生に叱られることが結構あったんですけど、それをネガティブに受け止めて「自分がダメだから怒られてるんだ」とか「嫌われてるんじゃないか」って思うと、その気持ちに引きずられてどんどんダメになっていっちゃうんですよね。

でもそうじゃなくてポジティブに変換する、叱られている言葉の裏を読んで「あたしにこういうものを求めてるから言ってくれてるんだろうな」って捉えることで落ち込まないし、成長にも繋げられるって考えができるようになったので、その影響が大きいのかもしれません。

自分は自分


―同じKAMITSUBAKI STUDIOに所属する花譜さん、春猿火さん、ヰ世界情緒さん、幸祜さんとのグループ「V.W.P」での制作も進んでいるかと思いますが、グループで歌唱する時は一人の時とどのような違いがあるのでしょう?

理芽:みんなで歌うのはすごい楽しくて、その楽しさが歌にも表現されているような気がします。普段は謎めいたマイナーな調子の曲を歌うことが多いんですけど、V.W.Pではポップで明るい元気ハツラツ! みたいな曲も歌っているので、普段は出せないような雰囲気を見てもらえるんじゃないでしょうか。

―メンバーについてはどのような印象を持っていますか?

理芽:みんなと一緒に歌ってると自分の迫力の無さだったり、存在感の薄さを感じることもあるんですけど、負けないぞっていうライバル意識を燃やすというよりは、みんなの姿を見てあたしもここを工夫してみようかなって思えるので、直接そう言い合うわけじゃないんですけど自然とアドバイスを貰えているような感覚があります。楽しくやりながらもしっかり成長できているのも感じるので、良い仲間意識を持てているのかもしれません。


―5月には1st ONE-MAN LIVE「ニューロマンス」を開催されました。初のワンマンにしてリアルバンドとの共演やAR的な演出など様々な挑戦がありましたがいかがでしたか?

理芽:やりきった感がすごくありますね。バンドの方々と一緒にやることで同じ曲でもいつもと違って聴こえるっていうライブならではの楽しみを味わえたんじゃないかなと思います。演出やいろんなところでライブならではのことも意識しながら楽しんでやれたので、あたしは大満足でした(笑)。

―ライブの成功にアルバムのリリースとアーティストとしては大きな節目を迎えているタイミングかと思いますが、そんな今だからこそ感じるご自身のアーティスト性についてはどのように考えていますか?

理芽:いつも自分は自分というスタンスでいるので、なにか特別なものがあるというよりはありのままを出しているような感覚です。不思議な声をしているって言われることが多くて、自分では魅力だとは思っていなかったんですが、それも意識しないまま自然に自分から出てくるものなら大事にしていきたいと思いますし、その謎さみたいなものはずっと持ち続けたいです。

今までは褒められるのが苦手だったというか、自分で自分を認めてなかったから褒められても受け止められなくて、自信が持てなかったんです。でも今まで自分では好きだと思ったことがなかった自分の声も、それでも良いって言ってくれる人がいるんだと思って、自分の曲を聴くと、素直にいいなって思える瞬間があって自分でも自分の良さみたいなものをわかるようになってきたのかもしれません。

―精神の面でも大きな成長があったんですね。最後に、アーティストとして今後成し遂げたいことをうかがえますか?

理芽:今までの活動でつくってきたものって理芽の音楽ではあっても、あたしは歌っているだけでそれ以外のすべてを他の人に協力してもらっている状態でした。歌うことに専念できるし、魂を込めることに集中できるのでそのやり方にも満足しているんですが、自分で曲をつくったりして、もっと本来の意味で「これが理芽の音楽です」って言えるようになりたいとも思うようになったんです。そうやっていろんなことに挑戦することでもっと音楽の幅を広げていきたいと思います。
 

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