2021年8月27日(金)、東京・ヒューリックホール東京にて春猿火さんの1st ONE-MAN LIVE 「シャーマニズム」が開催されました。
デビューから約2年弱。バーチャルとリアルの垣根を壊しながら活動を展開してきた春猿火さん。本記事では、そんな彼女の集大成ともいえるステージの模様をお届けします。
前口上からライブはスタート。スクリーンにはOP映像が流れ、「覚醒しよう、シャーマニズム」の宣言とともに、ステージ上にバンドメンバーと春猿火さんが登場します。
1曲目は最初のオリジナル曲「逆転」。前日までTwitterで公開されていたカウントダウン動画では、緊張していると語っていましたが、そんな様子など微塵も感じさせない堂々たるパフォーマンスで会場を自分色に染め上げていきます。
その後も「猛進」「Lift Up」と3曲を矢継ぎ早に披露。テンポの速い難しいラップですが、息が乱れることなど一切なく歌い上げます。生バンドによるアレンジも相まって、会場のボルテージは最高潮! 春猿火さんらしく最初からアクセルを緩める気のないステージが繰り広げられました。
最初のMCに入り、まずは水分補給。観測者(ファンの通称)たちからは恒例の「お水助かる」拍手が送られます。「こうしてステージでみなさんと会うことが出来て嬉しいです。全力で頑張るので、ついてきてくださいね!」と、ライブへの意気込みを示しました。
次の曲へ向けて、春猿火さんが背後にいるバンドメンバーへ首をクイっと傾けて合図を送ります。些細なことですが、こういった部分に「バーチャルとリアルの垣根の破壊」すなわち、仮想と現実の融合を垣間見たような気がしました。
続いては未発表曲の「青春」が披露されました。ゆったりとした優しい曲調に、春猿火さんの力強くも包容力のある歌声が心に響く一曲……と思わせて、疾走感のあるラップパートをしっかりと織り交ぜた、変幻自在の歌声だからこそ表現できる楽曲に仕上がっていました。
「歌ってみた」のコーナーでは、春猿火さんの大切な曲が詰め込まれていました。
1曲目は普段から歌っているというMisumiさんの「FAKE」。ド派手なエフェクト演出で、オンライン参加者まで魅了します。
続いてGuianoさんの「晴れるなら」、大沼パセリさんの「Lonely」をカバー。そして、ラストはカンザキイオリさんの「命に嫌われている。」が独自のアレンジを施したラップver.ではなく、通常ver.で初披露されました。そこに新鮮さを感じてしまうのは、春猿火さんが「バーチャルラップシンガー」としての存在を確立させている証明かもしれません。
続いては一組目のゲスト「KMNZ」がステージに招かれます。獣耳が可愛い2人の登場に、どこかほんわかした雰囲気に包まれる会場ですが、コラボ曲である「3D - Three Dimension」はそんな和やかムードを一気に熱狂へと激変させました。
「KMNZ」退場後、改めてバンドメンバーの紹介。そのまま息もつかせずに初の配信シングル「台風の眼」へ! メッセージ性の強い魂の一曲は、ライブ映え抜群です。
リリースされたばかりの「哀愁さえも仲間」を披露。そして前半戦ラストとなる「覚醒 feat.さなり」を、ゲストにさなりさんを招いて歌い上げました。肩を並べて歌う2人が向かい合う場面があり、改めて彼女が思い描く「バーチャルとリアルの垣根の破壊」が、ステージ上で形になっていると関心させられました。
手拍子のアンコールが会場に響き渡り、ステージに春猿火さんとヰ世界情緒さんが登壇。「祭壇」を「花魁鳥」(エトピリカ)衣装で歌い上げます。余韻に浸る間もなく新曲「牢獄」を披露。春猿火さんの「頭が高いぞ」のフレーズに痺れた方も少なくはないでしょう。
その後のMCでは新曲について、「大人っぽくて迫力のあるすごい曲。2人での掛け合いが楽しい」とコメント。さらには「色々な場所で歌いたい。運営さんお願いします」と、可愛く圧をかける場面もあり、会場からは賛同するように拍手が巻き起こっていました。
そして、ここで新衣装のお披露目となりました。白と黒を基調としたフード付きの衣装は、その名も「纏 其ノ特 九紋龍(まとい そのとく くもんりゅう)」。ライブのタイトルにある「シャーマン」を連想させるように、春猿火さんも「(新衣装を)憑依合体したよ!」と喜びを隠せないご様子。
そのまま一二三さん、たかやんさんによる和テイストのロック「百花繚乱」を熱唱。新衣装での新曲披露となりました。さらに、フードを脱いだおでこ出しのスタイルで「告げ口」を歌い上げます。
そして最後のMC。ここで春猿火さんが神椿に出会うまでの過去が赤裸々に語られます。
「実は私は、春猿火に出会う前に、違う私になるはずでした」
いわゆるメタな発言であり、一部のバーチャル業界ではタブーとされがちな話題ですが、春猿火さんは続けます。
「その企画は無くなってしまい、その子の魂になることが出来なかったんです。そんな中でプロデューサーさんに出会い、たかやんさんに出会い、色々な方が手を差し伸べてくれました」
涙ながらに語る姿に対して、声の出せない会場からは自然と拍手が鳴ります。
「本当の私は引きこもり体質で、自信もなくて、カッコいい春猿火に憧れて強さを演じていた部分があったのかもしれません。春猿火が私に憑依して、弱い私を守ってくれていることに気が付きました。私自身が一番春猿火に救われているのかもしれませんね」
グッと涙を拭い、「私にとって、歌を歌うことが、”春猿火” と”私自身"の魂を一つにさせる、勇気を手に入れるための祈り、それがシャーマニズム。生まれることができなかった"もう一人の私" 、閉じこもるばかりだった "たった一人の私"、一人では出会えなかった "本当の私"、全ての魂を覆う殻を、言霊で撃ち抜こう。」と、タイトルに込めた意味を言葉にしました。
続く新曲「テラ」は、まさに春猿火さんの想いや過去に対するアンサーのようにも捉えられる一曲でした。
そして、ライブはいよいよ最後の曲を残すのみ。
楽曲は聴く人によって、その意味や受け取り方が違います。ただ、この瞬間に春猿火さんが歌った「居場所」だけは、観測者たちの気持ちを一つにしていたと感じました。
「私の曲が、あなたと一緒に歳を取って、あなたの一部になってくれたら嬉しいです」
ライブ中のMCで印象的だった言葉です。彼女にとって「春猿火」という器 が「居場所」であり、そんな「春猿火」の歌が多くの観測者たちにとっての「居場所」となっている。
今回のライブを通じて、改めて春猿火さんが発信する歌が、受け取り手の一部(居場所)になっているんだと実感させられました。――仮想世界からあなたへ。そこには春猿火さんらしい、共に生きるという”バーチャルとリアルの垣根の破壊”があるのかもしれません。