レポート

2021.11.21

圧倒的パフォーマンスで王者たる所以を証明した葛葉――バースデーイベント「Scarlet Invitation」レポート

11月10日、にじさんじ所属のバーチャルライバー・葛葉さんがバースデーソロイベント「Scarlet Invitation」を開催した。

当イベントはZepp Haneda(TOKYO)で開催され、現地動員のほか有料配信も実施。3曲目までは配信上で無料公開もされた。

葛葉さんは、男性VTuberとして初のYouTubeチャンネル登録者数100万人を突破。登録者数は現時点で111万人にのぼる。「KING」の歌ってみたは驚異の2,800万回超え。普段はゲーム配信を中心に行っており、小気味良いトークで男女問わず人気を集める存在だ。

この記事では、そんな葛葉さんの誕生日当日に行われた当イベントについて、配信での様子も含めてお届けする。

■無料パートで惜しみなく披露された新衣装

定刻を迎えると、ゴシックなオープニング映像が宴の始まりを告げる。映像のカウントダウンに導かれ、会場中のペンライトが徐々に赤く染まっていく。配信でもこの日のドレスコードを意識してか、デフォルトの白からわざわざ赤文字に切り替えてコメントする人も。

グロッケンの音が煌めく中、おなじみのジャージ姿で葛葉さんが登場。幕開けを彩るのは「アカシア」。高音も難なく、むしろ気持ちよさそうに歌いあげる姿には、初のソロイベントとは思えない貫禄すら感じられる。

一転、重々しいライティングの中でロックナンバー「曇天」が走り出す。体を大きく揺らしながらがなり声で歌い上げ、「盛り上がってるか!!」と渾身の叫びをオーディエンスにぶつける。安定した歌唱力もさることながら、全身を使ってのパフォーマンスも圧巻。

全身が赤いコウモリに包まれると、瞬時に衣装が変わる。ライブキービジュアルで見せていた新衣装をまとえば、驚きの演出に配信画面には弾幕のごとくコメントが殺到する。そのまま高らかに「V.I.P」を歌い上げ、今の葛葉さんと歌詞のシンクロ性も相まって、ますます彼の世界に引き込まれていく。

一気に3曲を歌い上げた葛葉さんは、水分補給をしてようやく一息ついた。「ここで飲む水が一番うまい」という彼らしい軽口に思わずにやりとしてしまう。

いつもの配信を思い出すようなMCでほころんだ空気を、「脳内革命ガール2016 ver.」のイントロが塗り替える。カメラワークにも徹底したこだわりが感じられ、音に合わせて滑らかにアングルを変えるなど、音ハメ効果によって、彼が本来持つ存在感をさらに引き立てていく。本当なら現地に行きたかったネチケ民(ネットチケット視聴者)も多かっただろうが、逆に現地では見られない演出がちりばめられており、ネット視聴ならではのショーを成立させている点も脱帽だ。

何より、今日の葛葉さんはとにかくよく動き、指先までときに繊細に、ときに力強い所作で曲を表現する。憑依しているのかと思うくらい、歩き方ひとつとっても曲ごとに微妙に変えているのである。そして、そんな彼のパフォーマンスを贅沢にも360度からカメラが追いかける。

■葛葉さんのアーティスト性を魅せる、「いかにも」な選曲と「まさかの」な選曲

真っ赤な椅子に座ったのを合図に、展開された「KING」。1年前に投稿された同曲の歌ってみたは、彼の知名度をさらに押し上げた動画でもある。ファンにとっても本人にとっても思い出深いこの曲を、この日は生歌で披露した。豪奢な椅子に座り、足を組んで歌う姿はまさしく王者の風格である。


そうしたいかにもな曲の一方で、続く「サリシノハラ」や「スパークル」という選択は、やや意外ながら結果として葛葉さんの新たな一面を魅せ、早くもアーティストとしてのセルフプロデュース力の高さも感じられる絶妙な選曲だ。

「スパークル」では、ステージ下手の階段に腰かけた葛葉さん。彼の歌が指揮となって、観客のペンライトを一定のリズムに導く。吸血鬼である葛葉さんは、人間のそれとは違う時間感覚の中を生きている。大きさの違う砂時計が偶然にもかみ合った瞬間だけ実現した、バースデーライブという今日。葛葉さんが歌う「スパークル」の歌詞の1つひとつに、その尊さを噛みしめざるを得ない。

ここまで見事に会場中を魅了しておいて、突然「結構駆け足で来たけど、たの……しい……?」と不安げに聞くものだから、本当に葛葉さんという存在は愛されるべくして愛されていると思う。もちろん先ほどの問いかけに対して、会場は割れんばかりの拍手で。配信は怒涛のコメントで応えた。安心したようにはにかむと、前半最後の曲「SHAMROCK」へ突入。これまた意外で、けれど曲が進む中でどこかに彼らしさを見つけ、「これが彼の伝えたいことなんだ」と納得させられてしまう。葛葉さんの歌には、そんな説得力があった。

■スタッフから葛葉さんへのサプライズと、葛葉さんからファンへのサプライズ

企画パートを経て、「さあいよいよラストスパートに」というタイミングで、突如流れ始めたハッピーバースデー。ケーキも登場し、これらの演出はスタッフ陣が葛葉さんに贈るサプライズプレゼントだ。「ええー!? スタッフミスりやがったとか思ったら!!」という素直すぎるリアクションから本当にサプライズだったことが伺えるが、すぐに「嬉しい!!」と破顔した。

 

微笑ましい空気感を振り払うように一気に表情を変えると、オリジナル曲「コントレイル」。初めて届けたい人の方を向いて、まっすぐと歌われる<まだ光に満たない 僕を見つけたひとへ><君の色彩なく 僕の絵は画けない>といったフレーズの数々が、音源にはない力をもって我々の心を掴んでくる。


大切な曲とともに、今度は葛葉さんから火畜(ファン)の皆へのプレゼントとして、「Virgin Musicからのメジャーデビュー」という大きな報告が贈られた。

「俺にできんのかなとか、やっぱり自己肯定感が低いから思ったんだけど。でもね」

「今見てるみんなには成長を見てもらいたい。いつも『期待しないで』って言ってるけど、少しだけ期待してほしいんだよね。成長する、ここから」

そう宣言し、新たな門出を自らが歌う「決意の朝に」で彩る。再び階段に座って歌う横顔は、メジャーデビュー発表という大仕事を経た今、それまでよりも心なしか晴れ晴れして見える。そのまま「Sign」になだれ込むと、疲れを一切感じさせない、むしろ背負ったものたちを次々とパワーに変えていくように力強く歌い上げる。今日一番の声量で「めんどくさがりで長生きな俺が、今しか生きれねぇお前らのために、皆がくれたチャンス掴んでみせるぜ!」と叫べば、配信では「葛葉が俺たちの主人公だよ」「ありがとう」というコメントが次々に寄せられた。

ライブも終盤。客席や配信に呼びかけたり、ペンライトを振らせたりと名残惜しそうに観客とのコミュニケーションを楽しむと、最後の曲「愛言葉II」。<3年分の感謝><9、2、8をかけると何になるでしょう>というアレンジもまじえながら、ここまで歩いてきた道のりを感謝する歌詞に自らの想いを載せる。大きく手を振りながらステージの端から端までを歩き、最後まで気持ちを込めて歌い上げる姿が印象的だった。

ライブ終了後、改めて本イベントのキービジュアルを見た。葛葉さんがこちらに手を差し伸べ、イベントへと誘っているように見えていたイラストだったが、今思えば、さらにその先のステップへと私たちを連れて行こうとしているのかもしれない。そう感じるほどに、今回のライブは彼がファンを大切に思う気持ちと、この先に広がる無限の可能性を想像させるステージだった。

ちなみに「愛言葉」シリーズには続きがある。また次の大切な節目で、今度は「愛言葉III」を聴かせてくれることを願ってやまない。


■Kuzuha Birthday Event 「Scarlet Invitation」セットリスト

1.アカシア
2.曇天
3.V.I.P
4.脳内革命ガール2016 ver.
5.KING
6.サリシノハラ
7.スパークル
8.SHAMROCK
9.コントレイル
10.決意の朝に
11.Sign
12.愛言葉II
 

 

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