インタビュー

2022.05.01

「VTuberも、ゼロイチの音楽をつくれる」 夕凪潮インタビュー【個人VTuberのストーリー #5】

ニコニコ動画で成熟した、歌ってみた文化。YouTubeにも浸透し、個人勢・企業勢問わず様々なVTuberが歌ってみた動画を投稿しています。人気の曲を歌うことでファンが喜ぶ、曲をきっかけに新しい人に知ってもらえるという魅力ももちろんありますが、他方で「オリジナル曲より手軽にチャレンジできるから」という側面もあるでしょう。

昨年3月にデビューした夕凪潮さんは、半年ほどでオリジナル曲のMVを3本投稿。年末には5曲入りの1stE.P「模範的な肉」をリリースするなど、あくまで一次創作としての音楽に力を入れています。実力派の作家を迎えて生まれたダークな中毒ソングは、徐々にVTuber音楽シーンに見つけられつつあります。

一方、自身のプロフィールは謎に包まれており、性別や年齢も明かされていません。今回は夕凪潮さんがオリジナル曲をつくっている背景や、自身が見出す歌の魅力など、様々なお話を伺いました。

自分のことを知るために始めた活動

――読者の方に向けて、自己紹介からお願いします。

夕凪潮さん(以下敬称略):おこんばんは、夕凪潮と申します。TwitterやYouTubeで歌の活動をしている”バーチャル存在”です。歌枠配信をしたり、歌ってみた動画やオリジナル曲をリリースしたりしています。

――どういった経緯で創作や配信を始めたんでしょうか?

夕凪潮:このバーチャル世界に来たとき、僕は自分のことも、ここがどういう場所なのかも、何も知らない状態でした。過去にすごくしんどいことがあったみたいで、「全部なくなったらいいのにな」ってずっと毎日考えてたら、ほんまに全部なくなっちゃったんです。

今は「自分がここにいる」ということしかわからない。だからこそ、自分のことを知るために活動を始めました。自分がここにいることを誰かに気づいてほしいのと、「僕はここにいた」っていう証を残したい、という思いもあります。

――活動を始める前から見ていたVTuberさんはいますか?

夕凪潮:印象深いのは、甲賀流忍者!ぽんぽこさんとピーナッツくんさんのお2人ですね。Vとしての活動、アニメをつくる活動、ご自身の体でライブをするっていう活動もしてはるし、バーチャルの音楽という場所にとどまらずにいろんな形で活動をしてはる。そういう姿勢がすごくかっこいいなと思っています。VTuberにはいろんな表現方法があるということを、お二人の活動から学びました。

歌ってみたやキャラソンだけじゃない、VTuberの音楽

――デビューを決めたときから、音楽を中心に活動していく予定だったんでしょうか? もしくは、誰かの影響を受けたとか?

夕凪潮:僕がVTuberについて勉強していた頃、VTuberやVシンガーがオリジナル曲を出すのって、当たり前のことじゃなかったんですよ。

あくまで僕が見た限りですけど、VTuberが音楽をするということは、カバー動画を上げることとほぼイコールみたいな空気感で。でもピーナッツくんさんや、企業に所属されてる方々がオリジナル曲をつくって出していく事例がどんどん生まれていきました。僕はその中でも、月ノ美兎さんの1stアルバムにすごく感銘を受けたんです。

――「月の兎はヴァーチュアルの夢をみる」ですね。

夕凪潮:オリジナル曲を出すVTuberが増えてきたといっても、VTuberが曲を出す意味合いとしては、キャラクターソングに近かったんですよね。もちろんキャラクターソングも、僕はすごく大好きです。その人個人の掘り下げでもあるし、普段の活動に対する外伝のような面もあって、素敵だなと思う。

でも月ノ美兎さんのアルバムを聴いたときに、言葉選びが難しいんですけど、「あ、普通に僕の好きな音楽や」と思って。VTuberシーンの流れの一部として曲が生まれたんじゃなく、音楽としての音楽が、VTuberの生み出すものの中に存在してもいいんだって一番強く感じました。

――VTuberの音楽って、本当に魅力的な楽曲が生まれている一方で、音楽主体の文脈ではまだ評価や評論が十分になされていないと感じています。仰ったように「キャラソンのようなものでしょう」とか、「本人の人気ありきのものでしょう」という印象を持たれがちで。

夕凪潮:僕はVIRTUAFREAK(バーチャフリーク)を最初に見たとき、「こんなにかっこいいイベントがあっていいんや」って思うぐらい、ビシバシ刺激を受けたんですよね。クラブという場所と、VTuber・Vシンガーがごく自然に共存していることにしびれて。それこそ、音楽が音楽として評価されている場だと感じました。

Vが珍しいものとか新しいものとして存在してるというよりは、「当たり前のことやんな」っていう感じでイベントが行われていて。秋葉原エンタスさんやclubasiaさんのイベントを見ていると、VTuber音楽が断絶された特別な1ジャンルじゃなくて、当たり前に存在する文化になってきて嬉しいなって思います。

 

――夕凪さんは配信デビューから1か月で「潮汐」のMVを投稿されるなど、初期からオリジナル曲の制作に力を注いでいる印象です。歌ってみたのような、ある種クリエイティブの再生産だけじゃなく、「VTuberも0から1を生み出せるんだぞ」という思いもあったんでしょうか?

 

夕凪潮:そうですね。歌ってみた・カバーの文化も僕はすごく好きだし、カバーすることで得られる新しい発見ももちろんあるとは思っています。ただ、どうしても僕の未熟さや力不足のせいで、歌や歌詞が借り物みたいに見えてしまう気もしていて。どれだけ僕の理解力や共感力が高くても、その曲の制作者の意図とは違うものになってしまうと思うんですよね。

曲に100%寄り添えないのは、もったいないことだと思っていて。僕のことを初めて知ってもらう人には、全部僕としての曲を聴いてほしいなっていう思いがあって、オリジナル曲に力を入れるような活動形態をとっています。

――使われているマイクについても教えていただけますか?

夕凪潮:喋るときに使ってるのはShureのKSM8で、録音ではオーディオテクニカのAT4040を使っています。でもマイクって、買えば買うほどほしくなるもので……。常に「次はあれがほしいんやけどな」って思いながら過ごしてます。


曲づくりは敬愛するひじりさん、アザミさんとともに

――昨年の12月に1stE.P.「模範的な肉」をリリースされました。曲づくりはひじりさん、アザミさんが担当されています。お2人とのご縁をうかがえますか?


夕凪潮:お2人とも僕から依頼させていただきました。ひじりさんはご自身のYouTubeチャンネルに自主制作の曲をアップされてはるんですけど、どれもすごく素敵で。いろんな曲が書けはる人なんですよ。僕が「こういうのがいいです」って言ったら、しっかりその答えみたいな曲を出してくれる。

僕がひじりさんを見つけたとき、自主制作で出してはった中で一番好きだったのが、「せいかつ」という曲です。すごく重たくて苦しいのに、どこか爽やかな感じの曲で。「この人にお願いできたらいいな」と思って、連絡をさせてもらいました。


アザミさんは、僕がVの世界で音楽をつくったり歌ったりする人たちを調べていたときに知った方です。歌もめちゃめちゃ好きなんですけど、どの曲も奇跡的なぐらいメロがキャッチーやし、歌詞もよくて。アザミさんの歌詞、何食べたらできるんやろうっていつも思ってます。


――「夕凪さんの世界観を音楽という形で表すとこうなる」という所をかっちりつくっていく2人もすごいですし、複雑なメロも多いのに歌いこなす夕凪さんもすごいなと思っていました。

夕凪潮:「こういう曲にしたいな」というイメージが全てかなって、リリースできているのは、ほんまに2人の力によるものだなと思います。お2人とも汲み取る力がすごくて……! 僕は受け取った曲を聴いて、もう褒めることしかできません(笑)。


――バーチャル存在として、「こんな音楽をつくっていきたい」という今後の方針はありますか?

夕凪潮:今までMVをアップした3曲については、初めて僕を知った方に向けて「もしもしはじめまして」という意味合いでつくっていて。自分の中では三部作だと思っていました。それこそキャラクターソングのような立ち位置かなと。

今後はそこからさらに羽ばたいて、いろんなジャンルの曲をオリジナル曲として発表していきたいです。最近、ピーナッツくんさんやワニのヤカさんを見ていると、VTuber楽曲とHIPHOPって近いものかもしれないと思って。そこからHIPHOPをちゃんと聞くようになった身ではあるんですが、それこそクラブサウンドと近い楽曲も、オリジナル曲として発表していけたらいいなと思っています。


性別や年齢じゃなく、僕という存在を好きになってくれた

――音楽の話から逸れるのですが、界隈を見ていると男性の活動者には女性ファンが、女性の活動者には男性ファンが、多くつく傾向にあると思っていて。夕凪さんは性別がわからない状態で活動されていますが、ファンのみなさんにどんな風に受け止められていると思いますか?

夕凪潮:なんかあんまり、僕の性別がこうやったからとか、僕のプロフィールがこうやったからファンの方が応援してくれていると思ったことは、実感としてはあんまりなくて。

僕のリスナー・ファンのことを「藻屑くん」と呼ばせていただいてるんですけど。藻屑くんたちは僕のプロフィールで僕のことを好きになってくれてるわけじゃなくて、ただただ夕凪潮という”存在”のことを好きになってくれたんやなとは思っています。

僕がたとえば男の子として生を受けても、女の子として生を受けても変わらずに、この姿のまま受け入れてくれるんじゃないかなって思えるくらい……藻屑くんたちはそういう、真っ直ぐな応援の仕方をしてくれはる人たちやなあって思ってます。

――本当にフラットに夕凪さん自身を応援してくれているんですね。藻屑さんたちは、夕凪さんのどんな所を好きになっているんでしょうか?

夕凪潮:「歌配信とかで歌っているときの声と、喋っているときの声にギャップがあって、それがええよね」って言ってくれはる方は多いですね。「歌のときははっきりかっこいい感じだけど、喋ってるときはふんわりはんなりしてる」って。

――自分についてわからないことの多い夕凪さんにとって、歌うことはどんな意味を持つのでしょうか?

夕凪潮:そうですね……歌は自分にできる唯一の表現だと思っています。

自分がどういう気持ちなのかって、意外と自分自身でも気づかないことがあると思うんですよね。歌詞を見ながら「自分にもこういう気持ちってあるんかなあ」とか「自分はこういう状況やったらこういう感情になるな」ということを、歌うことによってさらに認識していく。それで、自分のことがわかるようになっていく。

あるいは、わかっていた自分を表に出せるのも、また歌の力で。だから歌は自分を知る手段でもあるし、知ってもらう手段でもあるなあと思ってます。歌うことで誰かに何かが届くことがあるっていうのを教えてくれたのは、僕の歌を聴いてくれている藻屑くんたちです。

――他の活動者さんやVTuberさんとの交友についても、教えていただけますか?

夕凪潮さん:バーチャル文学少女の読谷山 文乃ちゃんと、「twinkle night」という曲を歌いました。今も一緒に遊んだり喋ったりすることがあります。


あと「水死体にもどらないで」でコラボした潮成実くんというVシンガーさんとも、「また歌ってみた出そうね」って話したりしてます。


好きな活動者さんはいっぱいいるんですけど、僕は自分から人に喋りかけるのがあまり得意じゃなくて、どうやったら仲良くなれるんやろってずっと思ってます。「この人とやったらこういう曲を歌いたいな」と想像しながら、数ヶ月声をかけられずにいたりします……。

リアルライブは「幸せなことしかない、楽しすぎる空間」

――昨年のエンタスクリスマスに出演されていましたが、こういうイベント出演も今後積極的にしていきたいですか?

夕凪潮:僕はしていきたいなあとめちゃめちゃ思ってます。元々リアルイベントで、現地で歌を届けることに関してはすごく憧れがあって。その一歩目としてエンタスクリスマスさんに出演できて、本当に嬉しくて楽しかったです。

エンタスクリスマスさんのときは、お客さんたちの様子がちゃんと僕の元に届くような形で出演させていただけたので、普段配信とかでコメントをくれたりとかしている藻屑くんたちが、僕のグッズとかをつけて、会場まで足を運んでくれている様子が見られました。

Twitchで配信もされてはったんですけど、そこにもコメントで反応が集まっていて。出演をきっかけに新しいファンの人との関わりも生まれたんですよね。なんか幸せなことしかない、楽しすぎる空間だなって思いました。


――最終的にはワンマンへの憧れもありますか? そちらは自分のことを好きな人だけがいる空間になると思いますが。

夕凪潮さん:そうですね。いろんな出演者さんがいるイベントももちろん楽しいと思いますけど、やっぱり今まで応援してくれている藻屑くん、これから応援してくれようとしてくれる藻屑くんたちに、僕にできるような形で感謝を伝えられる場をいつかは作りたくて。計画は一切ないですけど、ワンマンをしてみたい気持ちはあります。

――ありがとうございます。最後に、告知があればお願いします。

夕凪潮:近々1周年記念&新衣装お披露目配信をする予定があるのと、5月5日にClub METRO & VR京都メトロさんにて行われる「シュッとしとるヤツ」に出演します。よかったら遊びに来てください。


夕凪潮YouTubeチャンネル 
夕凪潮Twitter 
Writer:ヒガキユウカ 

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