
VTuberと聞くと、歌やゲーム実況、雑談配信をメインに行うタレント的存在を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし中には、その道の専門家や研究者がVTuberとなって、自分の知識に関する発信を行うケースもあります。
特に学術分野について発信するVTuberは「学術系VTuber」と呼ばれ、VTuber全体の隆盛とともにデビュー者も増えているほか、2021年12月には学術系VTuberユニット「まなぶい」による教材制作事業が経済産業省STEAMライブラリーに採択されるなど、教育上の意義という意味でも着実に認められつつある存在です。
物理学、栄養学、心理学、生命科学、挙げればきりがありませんが、様々な分野で学術系VTuberが活躍しています。今回は惑星科学を専門とし、宇宙に関する発信を行う学術系VTuber(※)の星見まどかさんにお話を伺いました。
※ご本人の発信では「科学者系VTuber」とも。
普段は惑星科学の研究者 宇宙の魅力を届ける「科学者系VTuber」
──今日はよろしくお願いします。まずは読者の方に向けて、自己紹介からお願いします。
星見まどかさん:科学者系VTuberの星見まどかです。普段は惑星についての研究をしているのですが、宇宙の魅力をたくさんの方に知っていただくためにVTuber活動を始めました。趣味であるTRPGの配信もしています。
──活動のスタイルについても教えてください。
星見まどかさん: 第2・第4月曜日に定期配信をしています。それまでの活動の振り返りをしたり、2週間に起きた宇宙に関するトピックを紹介したりしています。あとは9月12日の「宇宙の日」がデビュー日だったので、その月の12日が空いていれば「〇ヶ月記念」のような配信もしています。こちらでは主に「宇宙×エンタメ」の配信をしていて、これまでは88星座ビンゴ、宇宙曲縛り歌枠、宇宙エピソード凸待ちなどを行いました。
その他の配信の題材としては、星空について紹介するものや、宇宙に関する映画の同時視聴……あとは動画になりますが、『グノーシア』という宇宙人狼のゲーム実況も投稿しています。
――「天文学」という言葉は聞いたことがありますが、「惑星科学」は、まどかさんの配信で初めて知った言葉でした。
惑星科学がどんな学問なのか、基本的な所をうかがえますか?
星見まどかさん:「惑星科学」という単語を知らない方は多いと思います。私も昔は「天文学者になりたい」という言い方をしていました。惑星科学は、太陽系の成り立ち、惑星の構造、これまでに起きた変化、これからどうなっていくのか、他の天体に生命はあるのか……そういったことを知るために、惑星や衛星について調べたり、隕石を見たり、場合によっては太陽系の外の惑星を扱ったりもする学問です。
――ワクワクする学問ですね。エンタメとして宇宙が好き、という方も多いです。
星見まどかさん:もう一つの目的として、惑星科学を研究することは、地球の研究にも役立ちます。地球は表面が水で覆われていますし、何枚かの岩盤――いわゆるプレートが移動して地球の内部に沈み込んでいってしまったり、地震や火山の噴火など活動が活発に起こっていて、地球ができたころの痕跡はもうほとんど残っていません。
そこで、他の惑星やいろんな天体と比較することによって、地球がこれまでどう変化してきたか、太陽系ができたばかりのころはどんな様子だったか、これから地球はどうなっていくのか、ということを考えるヒントにもなるんです。
VTuberになったのは、「アウトリーチ活動」の一貫
――星見まどかさんがVTuberになった目的の一つに、「アウトリーチ活動(※)のため」もあるとのこと。一般的に研究者のアウトリーチ活動というと、どういうものがあるんでしょうか?
※一般の人々にもわかりやすい形で、研究内容・成果を伝える活動のこと
星見まどかさん:イメージしやすいものですと、一般の方に向けて話す講演会のようなものがあります。あとは「サイエンスカフェ」というもの。これは一般の方と研究者がコーヒーなどを飲みながら、科学を題材に気軽に会話できる場所です。ただ、講演会にしてもサイエンスカフェにしても、すでに相当興味を持っている人じゃないと、なかなか足を運ばないと思うんですよね。
――そうですね。だからこそ、まどかさんはVTuberという形を選んだと。
星見まどかさん:YouTubeでの動画や配信は、どこからでも気軽に見ることができるのがすごくいいところだと思っています。実際「解説動画」と銘打たれているコンテンツも多いですが、それもやはり、それなりの興味がないと再生しないんじゃないかなと。
そこでVTuberとしてデビューして、もともと宇宙に興味を持ってくださっている方はもちろん、VTuberとしての私に興味を持ってくださる方も含めて、より幅広い層に見ていただけたらな、と思いました。
――まどかさんの届けるコンテンツが入口になって、そこから宇宙のことにも興味を持つ方が生まれたら素晴らしいですね。研究者のアウトリーチ活動はもうちょっと敷居が高いイメージがあったので、VTuberのような形も「アリなんだ!」と思いました。
星見まどかさん:まさしく私は、その「敷居」を下げたいんです。普通に話していても「科学」の文字を聞いただけで「なんか難しそう……」と感じてしまう方はすごく多いので、そういう方にも興味を持ってもらいたいですね。
――まどかさんご自身は、もともとVTuberはご存じだったんですか?
星見まどかさん:一応知ってはいたんですが、そんなにしっかり見ていたわけではありませんでした。直接のきっかけになったのは、宇宙物理たんbotさんがYouTubeに解説動画を投稿しているのを見て、「ああ、こういう発信の形もあるんだな」と思いました。
宇宙を身近に感じてもらうための企画づくり
――毎月の星空案内や、宇宙トピックを扱う定期配信、デビュー3ヶ月記念の88星座ビンゴ大会など、宇宙を身近に感じられるコンテンツづくりがとても上手だなと思っています。これは、ふだんの研究活動の賜物なんでしょうか?
星見まどかさん:これまでの研究や発表の経験は、確かに役に立っているなと思います。あとは研究室の指導教員から、研究発表をするにあたってのアドバイスもいろいろといただいたことがあって。聞く側のことを意識するのは、指導教員から学んだことですね。
また研究以外でも、高校・大学時代には天文部や天文サークルに所属していて、子どもや一般の方相手に惑星の説明をしたり、プラネタリウム解説をした経験もあるんです。そういったものも大きかったのかもしれません。
――一つひとつの企画はどうやって思いついているんですか?
星見まどかさん:星空案内や定期配信で扱う宇宙トピックは、「普段宇宙についてのニュースに触れない方にも気軽に見てほしい」という考えからつくっています。88星座ビンゴ大会は、私の配信を見てくださっている方を主なターゲットとして、「エンタメとしても楽しめて、かつ解説を交えることで勉強にもなる企画」を考えていて思いついたものです。
星見まどかさん:こういうふうに具体的な視聴者層、見てくださるターゲットを想定して、その人にどういう情報を伝えたいか、その対象がどうしたら興味を持ってくれるかを考えていくなかで、気合でなんとかひねり出しています。
――相手に届くことをゴールにして、そのためにはどんな企画がいいか……と逆算していくんですね。準備が大変そうな枠も多いですが、日常生活の中で何割くらいのエネルギーをVTuber活動に割いていますか?
星見まどかさん:家にいる間は、もう10割VTuber活動に割いているイメージです。研究室にいる間も、本当は研究に専念するべきなんですけど、つい「これ動画でネタにできそうだな」って考えてしまうことがあって、だいぶ生活にVTuber活動が食い込んできているとは思います。
――ちなみに研究室の人たちに、「VTuberやってるよ」っていうのは……
星見まどかさん:話していません。一応、「将来的には研究者じゃなくアウトリーチ活動として、一般の方に情報を伝えることをしていきたい」とは話しているんですけど、実際に今VTuberとして活動していることは一切言ってないんです。
親しい友人にバレるのはそこまで恥ずかしくないんですが、周りの研究者にバレるのはちょっとまだ不安があって。
「VTuberというものをよく知らない方がどう感じるのかな」というのが、ドキドキする所です。活動を軌道に乗せることができたら、指導教員の先生には言おうかなと思ってるんですけど。
――宇宙に関する作品で、読者の方に向けてオススメがあればうかがえますでしょうか?
星見まどかさん:完全にフィクションと割り切ったもので言うなら、『彼方のアストラ』が本当に大好きです。少年少女が宇宙で遭難してしまって、協力して帰還を目指すんですが、その間にさまざまな苦難が待ち受けています。彼らがいろんな惑星を訪れるんですけど、私としては「この惑星はどうしたらそういう進化を遂げるのかなあ」みたいなことを考えて、楽しんでいたりもします。
あとは最近、同時視聴配信をした映画『インターステラ』もすごくよかったです。なんで今まで見ていなかったのかって、過去の自分を問い詰めたいくらい。実際の物理学に基づきつつ、うまくフィクションに落とし込んでいる部分もあって、良い映画だと思います。
――エンタメとしてある程度デフォルメされたり、事実からアレンジされている部分もあると思うんですが、その辺は気になったりしませんか?
星見まどかさん:モノによりますね(笑)。自分の分野とあまり関係なかったら「ああなるほど、そう表現したのね、うんうん」って気軽に受け入れるんですけど、ダイレクトな分野になってくると、「待ってそんなことしちゃダメダメ、やめてやめて」みたいに思っちゃうこともあります!
止まらない”クトゥルフ”愛! 「惑星をテーマにしたシナリオを自作したい」
――まどかさんはTRPG、特にクトゥルフ神話TRPGがお好きだと伺いました。どんな所に魅力を感じていますか?
星見まどかさん:クトゥルフ神話TRPGって、同じシナリオで遊んでも、どれひとつとして同じ展開にはならないんですよ。ダイス、つまりサイコロの判定だとか、どんなキャラクターが集まるか、そのキャラクターをどう動かすか、プレイヤー自身がどう考えるかによって、同じシナリオで遊んだとしても違う展開を見ることができる。
ときにはシナリオやキーパー(ゲームマスター)の想定をはるかに超えた展開を迎えることもあるんですね。そういう、可能性の宝庫であることが、私はクトゥルフ神話TRPGの大きな魅力だなと思っています。
――ちなみにキーパーとプレイヤー、まどかさんはどちらをするのが好きですか?
星見まどかさん:それぞれ違う魅力があるので、選べないですね……! プレイヤーだと先がどうなるか分からないドキドキ感がすごく楽しいですし、ダイスを振って一喜一憂したりとか、他のプレイヤーキャラクターやNPCとの掛け合いも楽しいと思います。
一方で、キーパーは判定のさじ加減や、どんなふうに描写するかによって、プレイヤーや視聴者の方に与えるシナリオ全体の印象すら変えかねない。プレッシャーがすごいんですけど、それがまたやりごたえがあって楽しいんですよね。私、最初はキーパーから入ったんですよ。
――そうなんですね。初心者感覚ですが、まずはプレイヤーから始めて、プレイしたことのあるシナリオでキーパーもやってみる、という方が多いのかと思っていました。
星見まどかさん:友だちと「クトゥルフ神話TRPGっておもしろそうだね。やってみよう」という話になって。誰かがキーパーをしなきゃいけないので、「じゃあ最初は私がやろう。みんな、どうなっても許せ」という感じでやってみました。キーパーをやったことがない読者さんは、「この人なら受け入れてくれそう」という人を相手に、ぜひ試してみてほしいです。
――クトゥルフ神話TRPGを長くやってらっしゃるとのことなんですが、オフラインでやられていた時期もあるんですか?
星見まどかさん:コロナ禍が始まる前までは、オフラインセッションばかりやっていました。みんなで家に集まって、ジュース飲んでお菓子を食べつつ、本物のサイコロを振って。
――最高ですね。逆にVTuberとしてやるからこその楽しさとか、配信とクトゥルフ神話TRPGの相性の良さといった所は感じていますか?
星見まどかさん:まずオンラインでの魅力という点では、「ココフォリア」というオンラインセッションツールを使って音楽を流したり、背景画像を用意したりすることで、より強い没入感を持って遊べる所が大きいです。
VTuberさんがやるという点でいうと、クトゥルフに限らずTRPGにはロールプレイというものがあります。「このキャラクターはこうします」という行動宣言だけでもいいんですけど、演劇のように、役になりきって喋るのも楽しいんですよね。VTuberさんには声が良い方や、演技がうまい方、あとは演出や展開の面で盛り上げ上手な方が多いので、視聴者さん側もひとつのエンタメ作品として楽しめる。
みんなで集まってわいわいやるのも楽しいですが、それを人に見せられるような魅力的なものにできて、かつ配信や動画という形でたくさんの人にそれを共有できるーーそういう所が、TRPGは本当にすごいなって思っています。
――今までプレイした中で、特にお気に入りの作品はありますか?
星見まどかさん:好きなシナリオはいっぱいあるんですけど、その中でもクトゥルフ神話TRPGの『台風の目』は最高でした。動画サイトに投稿されていたリプレイ動画を見てハマって、キーパーとして何度か回したことがあります。重厚な設定と魅力的なNPC、何よりも、シナリオの根幹にかかわるとある設定が本当に最高としか言えなくて!
――今日一番声のテンションが上がってますね(笑)。
星見まどかさん:本当に大好きなんですよ。いろんな人にこのシナリオを浴びてほしいので、どんどんキーパーをやっていきたいんですけど、このシナリオは遊ぶのに14時間くらいかかるんです。だから気軽に回すことができなくて……。スケジュール調整が最大の難関ですね。
配信でプレイしたことのあるものだと、『灼熱さえあればいい』が良いと思います。kyo。さんという方のチャンネルにお邪魔したんですが、TRPG初心者の方でも気軽に楽しめつつ、シナリオも面白い。もう一人のプレイヤーであるラングドシャさんとの掛け合いも楽しかったです。
――ご自身でもシナリオを書いたことがあると伺ったんですが、今後、星見まどかとして制作される予定はありますか?
星見まどかさん:いつかは絶対に出したいと思っています! 惑星をテーマにして、科学的な要素に基づきつつフィクションとして楽しめるものを書きたくて。気長に待っていてほしいですね。
目指すは「宇宙の話をしてくれるお姉さん」
――まどかさんは科学者系VTuberとしてアウトリーチ活動をされていて、いわゆるVタレントとして活動される方々とは、目指す所も少し違うのかなと思います。これからどんなVTuberになっていきたいですか?
星見まどかさん:私が目指しているのは、「宇宙の話をしてくれるお姉さん」のような身近な存在なんです。研究者というと、「違う世界の人だ」と感じるかもしれないんですけど、普通の人間なんですよね。「ちょっとこれについて教えて」って気軽に声をかけてもらえるような、そんなVTuberでいたいなと思っています。
――チャンネル登録者数やSNSのフォロワー数など、目に見える数字については、どのように受け止めているのでしょうか?
星見まどかさん:私としては、私を入り口に、宇宙のことに興味を持ってくれる人が増えたらいいなと思っているんです。極端な話、私が生み出すコンテンツだけにずっと興味を持ち続けてもらう必要はないと思っていて。
言い方はよくないかもしれませんが、私をステップにして、自分でも興味を持って宇宙のことを調べてくださったら、それもすごくうれしいんです。その母数が増えるという意味では、登録者数が増えていくのは自分にとっても望ましいことですね。
――ありがとうございます。最後に、PRや告知があればお願いします。
星見まどかさん:VTuberだからとか、声がちょっと気になったとか、顔が気になったとか、どんなきっかけでもいいので、私の動画や配信を見て「お? 宇宙、いいな」と思ってもらえたら本当にうれしいです!
告知としては、3月20日開催の「星マルシェ」に出演します。東京・三鷹の商店街で行われる東日本最大級の星イベントなのですが、現地でもYouTubeでも、どちらからでも私の配信をお楽しみいただけます!(星マルシェ ホームページ)
星見まどかYouTubeチャンネル
星見まどかTwitter
Writer:ヒガキユウカ
【前回の記事】
「LizMSYNC」が広げる、2D×配信ライブの可能性 音ノ瀬りずインタビュー